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(第1回) 開 設 の 志 編 |
【はじめまして 車両研究を趣味とする 電車発達史研究家の福原俊一です】
■鉄道趣味 世間一般では「鉄道ファン」と一括してくくられることが多いですが、この世界?は様々な分野に別れています。
その一つに車両の技術史や変遷を体系立てて調査する、要するに車両技術の歴史や1両ごとの履歴などを調査する「産業技術史」の範ちゅうに属する「車両研究」があり、筆者はそのなかでも電車発達史の研究をライフワークとする一人です。
そんな研究者の独り言や成果を開陳するページを開設致しました。
今後、おつきあいいただければ幸いです。
第1回目は、筆者の車両研究への志、そして21世紀以降は関係者への聞取り調査に軸足を置くようになった経緯をしたためることにします。
■昨今では少し大きな書店には必ずと言っていいくらい鉄道書コーナーが設けられているが、そこに並んだ文献の購読や写真撮影・現車調査などのフィールドワークから車両研究の第一歩がはじまる。
他の産業技術材の研究も同様だろうが、市販の文献で知識欲が満たされ知的好奇心が満足できなくなると、より深いステップに進む。
我々の場合では鉄道当局で発行され、市販の雑誌で紹介されていない「構造が詳細に解説された部内資料」の調査と相成る。
古書店に通ったり知己の鉄道当局関係者に依頼するなどあらゆる手段を用いて入手する努力に心血を注ぐようになっていくのである。
永年にわたって探し続けた資料が手に入ったときは筆舌に尽くし難い至福の瞬間を味わう。
他の産業技術材の研究者諸兄にとってこういった充実感は何が相当するのかと考えたりする、情報交換してみたいものである…。 |
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■しかし部内資料には事実(=結果)を記述しているだけで、開発に携わった技術者のモチーフや設計思想などには触れられていないことが多い。
鉄道とは経験工学と呼ばれ、国鉄時代には諸先輩方の回想録を系統的にとりまとめ、モチーフなどを後世に残す努力が続けられていた。
戦後を例にとっても「国鉄の回顧」(昭和27年)、「源流を求めて」(昭和48年)といったように、鉄道技術史に関するOBの座談会形式の文献が専門誌の出版社から単行本化されている。 これらの文献は関係者の記憶違いなどの可能性を無しとしないが、産業技術史の神髄である設計思想さらには技術移転の歴史など、前述の部内資料に記述されていない「活字に残しにくい領域」が残され、鉄道技術史を語るうえで貴重な一次資料となっている。
そんな文献まで貪る研究者など一握りだよ、という皮肉はさておいて、筆者はこだま形の通称で呼ばれる電車の開発に携わった関係者のモチーフや設計思想を知りたくなり、平成10年代初頭に聞取り調査を試みてみた。
幸いなことに関係者の多くは高齢とはいえお元気な方が多く、筆者の厚かましい依頼にもかかわらず聞取り調査に応じて下さって、設計・製作・運転など立場は違えども実現に向けて若き日に全力投球された貴重なお話を聞きかせていただいた。この成果の拙作単行本はJTBから上梓したのだが、聞取り調査の重要性を今更ながら認識した次第であった。
そんないきさつがあって、筆者はかねてから上記の「源流を求めて」などの続編を心待ちにしていたのだが、どこも企画しそうにない。
そこで、原稿は筆者がおこすから、当時の関係者にインタビューの段取りだけでも取って欲しいと出版社に打診してみたのだが、近年ではこのような手間のかかる企画は各出版社も敬遠するようで、色好い返事は得られなかった。
商業誌にとっては手間のかかるインタビュー記事と売上げに結びつくビジュアルな写真やニュース的話題のどちらを選択するかは自明の理なのかもしれない。しかしこの程度のことでへこたれては研究者の名がすたる、「誰もやらなかったら記録が後世に残らない、俺がやらねば誰がやる」の心境に変わっていった |
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■もちろん障害は多い。部外の一介の研究者が当時の関係者にアポを取ることがどれだけ至難の業であるか、これは体験した者でなければ分からないだろう。
関係者の消息探しひとつとっても大変だし、それ以前にどこの馬の骨かも分からない輩からいきなり「○○当時のお話をお聞かせ下さい」といわれる先方にとっては迷惑至極なのだから。
幸いに聞取り調査のお時間をいただくことができても、関係者の記憶が薄れてしまっていることも一再ではない。しかし若き日に全力投球で臨んだ思い出を熱く語ってくれる関係者も少なくないことも事実である。
鉄道車両は、計画・開発の前工程を経て誕生し、営業運転に使用されながら幾多の改造工事などの変遷をたどって一生を終えるまで大勢の関係者が携わり、かつ大勢の人々が乗客として接する産業技術材である。
その歴史を語るには諸元などの事実だけでなく、開発に携わった技術者たち思いを後世に正しく残すことは車両研究者の責務であるとの信念で、聞取り調査を継続している。
その成果が車両研究のレベルアップに些少なりとも貢献することを信じ、そして筆者の人生に多くの感動を与えてくれた電車への恩返しだからでもある…。 |
【付記】
当方のプロフィルは「福原俊一 wiki」に掲載されていますが、福島県立医大の福原俊一先生とお間違えられないように御願い致します。 |
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